1週間後、画像検査も含めて結果を聞きに行ったときは、「がんです」という言葉さえ省略され、「ここでは治療は無理。
紹介状を書くけど、どこがいい」と設備のある病院での手術を勧められた。
手術後の経過は順調で、現在、抗がん剤による治療を受けている。
検査でシロと言われても、不安が残ったり、症状がいっこうによくならない場合は、検査の「ダブルチェック」が重要になることを、主婦のケースは示している。
なぜ、最初の病院でがんが分からなかったのか。
診てもらった医師の専門性の有無を理由に挙げる。
Tさんには悲しい経験がある。
2001年に、実姉(当時岨歳)を乳がんで亡くしたのだ。
「姉の場合は知り合いが受けたので『自分も」と軽い気持ちで97年末、産婦人科で乳がん検診を受け、触診で右の胸にしこりが見つかった」。
超音波検査も受けたが、それ以上の検査は行われず、「担当した産婦人科医は良性と判断し、しばらく様子を見ることになった」という。
乳腺外科のTさんは、まさに乳がん治療の専門家だ。
1度、僕のところに来たら」と誘ったが、姉は「息子の受験が終わったらね」と答え、自分もそれ以上は言わなかった。
試験が終わった98年3月、姉がTさんのもとを訪れた。
胸のしこりを触っただけで「これはがんだ」と思った。
検査で、右胸の内側に2.5センチのがんが見つかった。
すでにリンパ節にも転移しており、手術後、2年7カ月で再発した。
「専門医なら、胸にしこりが見つかれば、それが良性だろうと悪性だろうと針による細胞診を行うなど次のステップを踏む。
だが、姉のケースだけがアンラッキーかというと、そうではない」とTさん。
乳腺外科を知る人は案外、少ない。
たいていは産婦人科に行ってしまう。
(見過ごした)医師を責めるというより、背景にある、医師も含めた知識不足という構造的な問題がある」と指摘する。
現在、超音波とマンモグラフィーを組み合わせれば、触診では分からない小さながんを見つけることも可能になった。
しかし、診断には医師にどれだけ乳腺の知識と治療の経験があるかがポイントになる。
検査「ダブルチェック」も有効。
神経内科の医師で、『学閥支配の医学』などの著書がある作家のYさんは、「消化器や循環器の区別ぐらいはあっても、必ずしもその臓器の専門家が診断しているとは限らない。
がんがあっても見落とされる可能性はある。
つまり、医療には限界があることを知っておくべきだ」と強調する。
一番いいのは、「先生のご専門は何ですか」と聞いてみることだという。
消化器であれば、「胃腸が専門ですか」「肝臓が専門ですか」と聞く。
婦人科でも子宮系か卵巣系かともう一歩、踏み込む。
自覚症状のある臓器と大きくかけ離れている場合には、より専門に近い医師に診てもらえるよう、病院側に希望を伝えることも自衛手段だ。
東京と地方の「医療格差」もある。
地方では総合病院でも、1人の医者がいくつもの臓器を「兼任」していることがあり、「現状では専門医をそろえているのは大学病院ぐらいだろう」。
乳がんを患った千葉県の主婦も、初めに訪れた地元の総合病院で触診したのは肝臓など消化器が専門の外科医で、その病院には乳腺の専門医がいないことが後で分かった。
「検査を受けるときに、『この検診でがんが見落とされる確率はどれぐらいありますか』と聞いてちゃんと答える医師は良心的。
自分の専門外の医師を紹介できることも名医の条件だ」診断結果に疑問が残ったり、症状がよくならない場合は、「違う病院で診てもらうことも必要だ。
基本的には、自分が納得のいく医療を受ける、という姿勢が大切だ」とYさんは説く。
賢く検査を受けるポイント(Yさんによる)専門性の高い医師に検査をしてもらう。
自分が納得するまで医師を変える。
検査結果を十分、口頭で説明してくれる病院を選ぶ。
人間ドック以外にも方法が検査はどこで。
がん検診を受けても「見逃し」が起きることがある。
「見逃されない」ために、どんな検査施設を選べばいいだろうか。
ヘビースモーカーで酒もよく飲む会社員のAさん。
自覚症状はなく、専門病院の一扉をいきなりたたくのは敷居の高さを感じる。
でも、たばこや酒を好む人はがんのリスクが高いといわれ、何となく気にかかる。
こんなAさんをたとえに、がん検査の窓口を探った。
「自覚症状がない場合は、人間ドックのように体全体を広く調べる検査が有効」。
主に企業健保対象の人間ドックを行う健康医学協会付属岩井クリニック(東京都千代田区)所長のN医師はアドバイスする。
Aさんの会社では、40歳以上の社員は2年ごとに会社負担でドックを受診できる。
ドックの主な検査項目は、採尿、採血、血圧・心電図、胸と胃のエックス線撮影などだ。
血液に含まれるたんぱく質などの量でがんの有無を調べる「腫傷マーカー」や、肺のヘリヵルCT(コンピューター断層撮影)検査も自己負担で追加できる。
腫傷マーカーは一項目数千円程度だ。
多忙なAさんは会社へのドック申し込みを忘れてしまった。
会社負担のドック受診は、あと1年待たないといけない。
半日コースで4万〜5万円かかる人間ドックを自費で受けてもよいが、別の入り口として、がんの有無を個人的に調べてもらう「個別検診」という方法がある。
日本対がん協会(本部・東京都中央区)の各地の支部や財団が運営する検診センター規模の大きな総合病院で受け付けている。
個別検診は、Aさんのように自覚症状がなければ、原則的に全額自費になる。
施設によって料金はまちまちだが、胃がん(エックス線検査)は4千〜1万5千円、肺がん(エックス線検査と疾の細胞診)が4千〜1万円、乳がん(視触診とマンモグラフィー)が5千〜1万円程度。
O放射線科部長は「人間ドックと違って、専門施設で受ける個別検診は、がんを意識しているので、より詳しく調べられ、指導も徹底できる」と説明する。
仮に、酒好きのAさんが社内の健康診断で、肝機能でチェックを受けることが多かったとする。
こんなふうに、気になる臓器や症状がある場合、どうすればよいか。
Oさんは胃腸科や呼吸器科など単科病院を選んで検査を受ける方法を勧める。
「単科病院の医師はより高度な医療体制を持つ施設に詳しい。
診断に迷ったとき、その医療ネットワークが役に立つ」と言う。
さらに、検査の確実性を高めたいと思ったら、どうすればいいか。
『医療事故自衛BOOK』などの著者で、がん治療に詳しい医療ジャーナリストのWさんは、「生活習慣や近親者のがんといった自分のリスク要因を把握し、ピンポィント検査と人間ドックなどを組み合わせる『戦略的受診』を心掛けるべきだ」と話す。
背景には自分自身のこんな経験がある。
人間ドックも個別検診も受けたことがなかったWさんは1999年、内視鏡についての本を書いたときに受けた内視鏡検査で、大腸ポリープからがん細胞が見つかった。
「ドックではおそらく発見できなかったでしょう」「戦略的受診」とは、定期的に検診やドックを受けて、体全体の何らかの兆候を探りながら、愛煙家は肺がん検査、便通に異常がある人は大腸の内視鏡検査、50歳に達した男性は前立腺がん検査を受けるといった方法だ。
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